越前ガニコラム「かにかくに、かに。」

 ズワイガニの中でも知名度ナンバーワンの「越前ガニ」。福井県にある三国港を取材中、大きな水槽の底でわらわらとうごめく赤く長い足を眺めていると、ズワイガニのことをほとんど知らずに生きてきたことに気がづいた。カニの大消費国である日本に生まれ、毎冬「カニ鍋」を楽しんでいるというのに、彼らに失礼ではないか。

市場で目にするズワイガニはオスである。節足動物門甲殻亜門軟甲綱真軟甲亜綱エビ上目十脚目短尾目クモガニ科ズワイガニ属。日本近海だけで約1,000種も生息しているカニであるが、ズワイガニ属には「本ズワイガニ(オピリオ種)」「大ズワイガニ(バルダイ種)」「ベニズワイガニ(紅ズワイガニ種)」の3種がいる。そのうち一定の条件を満たしたオピリオ種の本ズワイガニが日本海の越前海岸で揚がると「越前ガニ」に、山陰地方で揚がると「松葉ガニ」となり、松葉ガニは水揚げされた漁港でさらに名を与えられる。島根の隠岐諸島近海で揚がると「隠岐松葉ガニ」、鳥取なら「鳥取松葉ガニ」、兵庫の津居山港で揚がると「津居山ガニ」、京都の間人港なら「間人ガニ」というように。最近は単に「ズワイガニ」とされている手頃なものは、北海道近海か輸入ものらしい(ちなみに足が一組少ないタラバガニはヤドカリ科に属すため、厳密にはカニではない)。

 年に一度の脱皮を繰り返して大きくなり、8年~10年で食べごろになる(メスはうんと小さくてタマゴが美味なセイコちゃん)。深く暗い深海で群れて生息するが、ワタリガニのようには泳げないため、その生涯で大きな移動をすることはほとんどない。水深200~400mでの高い水圧と冷たい水が、ぷりっぷりでジューシーな繊維質たっぷりの重い身を作るのだ。ズッシリ重くて足が太く、甲羅に黒いブツブツがたくさんある方がいい。

越前ガニはセリも運搬もスピードが命とされ、船にいけすを持ち込みカニを生かしたまま漁場から運ばれる。鮮度が命の魚介類の中でも、カニは「風に当たるだけで傷む」というほどデリケートで、息絶えるとすぐに強い分解酵素を出して自分の内臓を溶かしてしまうのだ。日本のカニは漁法や冷蔵冷凍技術の進歩によりこの10年で格段に美味しくなったが、それでも漁港に近くなければなかなか生食できる機会は少ない。活ガニは持ち帰る途中で弱るし、冷凍ものは解凍が難しく、正しく解凍しないと味が抜けてしまう。持ち帰りには浜ゆでの冷蔵が最適と知って、あの時買わなかったことを激しく後悔している。越前、カムバーック!!(了)
※ウエルネスジャーナリストコラム/2011年情報誌掲載