京都・湯の花温泉コラム「目には青葉…」

 旅の目的は果たせなかった。出発直前に梅雨入りが発表され、おまけに台風まで近づいてきていた。大自然の、それも川の上で体験するレジャーなのだから、そういうこともあるだろうと覚悟はしていた。でもまだ雨は降り出していないし……と、淡い期待を抱きつつたどり着いた乗船場には『強風により中止』の看板が佇んでいた。

保津川下りへ行きたくなったきっかけは、ロイヤルウェディングだった。亀岡の小学生たちが「ぜひ新婚旅行に保津川下りへ」という手紙をウイリアム王子に送ったらそれに返事がきた、という素敵な新聞記事。地元の子どもたちが自慢に思うほどで、今も外国人に人気らしいのに、私には昭和なイメージしか浮かばず、何より体験したことがなかった。ではぜひに、と計画した旅で、その2時間の予定が中止となり、ぱっくり時間が空いた。
観光地ではない亀岡には旅の時間をつぶすあてはあまりなく、「明日も雨ならどう過ごそう」なんて会話をしながら、早めに宿へと向かった。

奥深い森の中では決してないその宿の窓に広がっていたのは、圧倒されるほどの新緑だった。山もみじの若芽特有の、新キャベツの葉のようなやわらかな黄緑。そういえば秋のキャンプ場で渓流釣りを教わった折、「一番いい季節は5~6月」と聞いた。新緑の木々に包まれる「あの贅沢」、それも若芽が美しい色を見せてくれるのは「晴天ではなく小雨」という、言葉通りの新緑が包み込むようにあった。

草木は冬の間に蓄えていたエネルギーを芽吹かせる時、時に人の「気」まで拝借してしまうほどエネルギーを必要とする。だから森林浴に行くなら、春先の木の芽時を過ぎた頃が向いている。また森林浴というと山登りや雑木林でのイメージだけれど、窓辺にいるだけで、もう森林浴だった。そして、三代目という女将さんは、この宿とこの地の魅力を十分に熟知されていた。全てが控えめで、全てが脇役。

翌朝もゆっくりと流れる時間を楽しみ、小さな朝市へ向かった。雨の止み間に聞こえる、ウグイスと雲雀のさえずり。ツバメの低空飛行。まもなく、梅雨の雨水をたっぷり飲んだハモが食べごろを迎え、川べりにはホタルが現れるのだ。日常の営みなど小さく感じるほどに、季節は移ろい、その姿を見せてくれる。
雨もいいわね、なんて言えてしまう、そんな緑の旅となった。

(了)


※文:真柴マキ(ウエルネスジャーナリスト)/2011年情報誌掲載