声のはなし/1●「声の仕事」は甘くない

流れてくる台詞を聞いていて
「嘘くさいなあ」と感じることがある。

収録では「もっと普通に」とか
「自然に」と指示しがちだけれど、
それで改善することはほとんどない。
実はいちばんむずかしい技術が
「普通にしゃべる」なのだ。
マイクやカメラを感じさせないのは
かなり高度な技である。

嘘くさいのは何故なのか、どう指示すればいいのか、
どんな指導を受けているのか、
いろいろな声のスクールに通ってみた。



まずナレータースクールで驚いたのは、
「声を仕事にしたい人ってこんなに多いのか!」ということ。
その多くが「レポーターしゃべり」か「青年の主張」で
「自分の声が大好き」だった。

自分の声が好き、という人の声を聞くのは、正直きつい。
ベクトルが聞く側に向いていない声は、雑音に聞こえてしまう。
駅ビルや地下街のテナントに響きわたる
鼻に響かせた「いらっしゃいませ~」のように。

人の下手さはわかるのに、自分の録音を聴いてみると
時間をかけて音読し続けているわりに、一向に上達しない。
「自分の声が好き」な人も
せっせと読む練習をしているのに
誰も上達していない…。

練習方法が悪いのか、もしや教え方の問題か。
「どうせここからプロデビューする人なんていないよ」的な空気が
指導側の元アナや声優の方々に
どことなく漂っているのも気になっていた。
前に進めるのは、つかんだ人だけだ。
どうすればつかめるんだろう?

ぶぐばぐぶぐばぐみぶぐばぐ…と自習室で音読みながら、
上手な人たちを観察するうちに、
あることに気が付いた。
いつもイヤホンで何かを聴いている人がいて、
レッスンの収録かと尋ねてみたら
好きなナレーターのナレーションを聞いている、という。
それを何度も何度も聞いて真似をしている、と。
上達していく人には、
「好きなナレーター」や「目標とする俳優」がいるのだ。

ある声優のクラスでは、声優を目指しているわりに、
ほとんど映画を観ていない人もいた。
知人で俳優塾を主催する現役の声優(俳優)さんは
とにかく無類の映画好き。
映画の話になると止まらなくなり、
「あのシーンのあのセリフが最高で」なんて
口真似してくれたりする。
大好きな世界なんだオーラ全開で、
いろんな声の表現を研究されていた。

これぞ、声で表現をしたい入門者が
初手の「技」をつかむコツだ。
声の仕事は「技術」なのだ。

・何より前提として、その世界を好き
・なりたい人、目標とする声がある
・それを何度も聞いて、真似る
・自分の声は必ず録音して聴き直す


マーケティングや制作の世界に
「TTP(徹底的にパクる)」という手法があるけれど、
まず真似をする、そして検証することこそ、
最強の基礎訓練ではないだろうか。